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あと三年待ってて下さいな


時間までちょっと仮眠を取るつもりが、いつの間にか結構深く眠っていたらしい。
自分以外の人の気配と、煙草の匂いの染み付いた部屋に不釣合いな、甘い匂いで目を開けた。

「あ、起こしちゃいました?すみません」
「……小鳩ちゃん」
「ごめんなさい、声はかけたんですけど。開いてたから上がらせてもらっちゃいました」

ぼんやりとした視界の中に、申し訳なさそうに覗き込む小鳩ちゃんの顔が映る。

「ああ……。ごめん、声には気付かなかった」

むしろ来るとわかっていて眠っていた俺が悪い。
まだ頭に霞がかったまま、ソファからゆっくりと体を起こした。
今日は久し振りの非番だった。
だからだろうか、普段は気付かなかった疲れがどっと出たのかもしれない。
彼女が遊びに来るまで時間があったから、ほんの少し眠ろうかと思っただけなのに。

「やっぱり今日はゆっくり休んだ方がよくないですか?」
「いや、平気。あんまり寝すぎるのもかえって調子狂うし。……それに」

今日くらい、この可愛い恋人と過ごしたいと思うのは当然だ。
俺としてはそっちの方が安らげる。


「どこか行きたいところ、ある?」
「じゃあ、笹塚さんの隣に行きたいです」
「……可愛いこと言ってくれるね」

言うなり、隣にちょこんと腰を下ろした小鳩ちゃんの頭を、照れ隠しにくしゃりと撫でた。
途端に、ふわりと甘い香りが舞う。目を覚ました時と同じ、キャンディのようなあの匂いだ。


小鳩ちゃん、何かつけてる?」
「弥子に貰ったフレグランスを、ちょこっとだけ」

俺が気付いたことが嬉しかったのか、シュガーベリーっていうんです、と更に付け加えた。
なるほど、名前の通り甘い苺だ。どっちかって言うと苺キャンディに近い。
まだ17歳の小鳩ちゃんには、これくらいの可愛い甘さが似合う気がする。
彼女自身気に入っているのか、香ったそれに目を細めた。

「甘すぎるかなーとも思ったんですけど。でもこれ、おいしそうな匂いだと思いませんか?」
「うん」


甘い香りと、肩に少しだけ触れる彼女のぬくもりが気持ちよくて、



「食べたくなる」



どこか夢うつつのまま、そう口にした。



「…………」
「………………」


自分の言葉と訪れた沈黙に、突然頭の霧が払われた気がした。


――――何を、言った?



勿論、深い意味があったわけじゃない。あったわけじゃない、が。
小鳩ちゃんは、耳まで赤くして困ったように下を向いていた。

……ああ、やっぱり。返答に困ってる。

寝ぼけて不用意な発言をした自分を呪いたくなった。
どうフォローしようかとこっそり頭を抱えた俺に、小鳩ちゃんがゆるゆると赤い顔を上げた。



「食べても、いいですよ」



恥ずかしそうに微笑んだ唇から紡がれた言葉に、今度は俺が言葉を失った。


「でもあの、」




あと三年待ってて下さいな

(それなら犯罪には、なりませんよね?)



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