menu

君からのキス



誕生日を聞かれて7月20日だと答えたら、小鳩ちゃんは大きな目を一層丸くした。

「今日じゃないですか!」
「ああ、うん。そうだね」
「何でそういうこと、もっと早く言ってくれないんですかーっ!」

慌てふためく小鳩ちゃんを見て、そんなに重要なことだったのかと少し申し訳ない気持ちになった。
この年になると誕生日なんて気にする程のことでもないし、そもそも記念日なんかに興味を持ったことがない。
ごめんと一言告げたら、絶叫と同時に立ち上がっていた小鳩ちゃんは、何とも言えない顔をして再びすとんと腰を下ろした。


「笹塚さんて夏男だったんですね。絶対秋か冬だと思って油断してました……」

言いながら、溜息と一緒に両手で顔を覆う。

「て言うより、もしかして聞くまで忘れてませんでした?」
「まぁ……。楽しみにするような年でもないからね」
「もう日が変わっちゃいますよ~……」

顔を上げて時計を見る彼女の視線を追うと、20日はもう残り数時間といったところだった。
なんにもお祝いらしいことしてない、と小鳩ちゃんがぼやく。
プレゼントを用意して、ご馳走作って、と指折り数えては眉を下げた。


「きっと今日非番だったのも、笛吹さんとかの計らいだったんですよね」

そう言われれば、そろそろ休みを取れと、いつも以上にしつこく周りから言われてはいた。
日付の指定までしてくるのは珍しいと思ったけど、そういうことだったらしい。
非番の日は大体小鳩ちゃんといるのは意外と知られているようだから、きっと気を利かせてくれたんだろう。


「俺は、こうして隣にいてくれただけでも充分だけど」


落ち込む彼女の頭を優しく撫でたら、少しだけその口元に笑みが戻った。

「でも、何か記念日っぽいことしたかったです。せっかく特別な日なのに」
「その気持ちだけで充分、嬉しいから」

それが嘘偽りない本音だってことは、小鳩ちゃんにもわかったのか、笹塚さん欲がなさすぎです、と拗ねたように訴えられた。
彼女にしてみれば何かしらしなきゃ気がすまないんだろうけど、生憎これといって要望がない。
こうして1日のんびり小鳩ちゃんと過ごす、それ以上の望みは特に思いつかなかった。



やがて何かを思いついたのか、小鳩ちゃんが落とした視線を再び勢いよく此方へ向ける。

「よし、今度のお休みのときにリベンジします!」
「リベンジ……(祝う感じじゃないけど)」

あまり誕生日に聞く言葉じゃない。
意気込む彼女に若干押されながらも、楽しみにしてるよと答えたら、嬉しそうに大きく頷いた。

「それでですね、えーっと……」

かと思えば歯切れが悪くなり、そわそわと視線をさ迷わせる。
突然どうしたのかと首を傾げたら、小鳩ちゃんは思い切ったようにぱっと顔を上げた。
その表情を確かめる間もなく、一瞬のうちに距離が縮まる。


「……!」

掠めるように唇と唇が触れて、そして離れた。


「笹塚さん、おっ、お誕生日、おめでとうございます……っ」


見たこともないくらい真っ赤になった小鳩ちゃんが、今日はこれしかあげられないので、と下を向いたまま言葉を続けた。


「……うん。……ありがとう」


彼女につられたんだろうか。

口にした途端、何だかじわじわと体温が上がっていくのを、感じた。





君からのキス

(これ以上何か望んだら、罪になりそうだ)



title:恋したくなるお題



BACK← →NEXT
top