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冗談なんて通じないよ



警察署内といえど、バレンタインは空気がなんか違う。
ここにいる限り、この雰囲気にはきっと溶け込むことはないんだろうなぁ。
そんなことを考えて、昼食後のコーヒーを啜っていたら、


柚原さんさぁ、今日俺にくれるもんないわけ?」


ふいに隣に座った篚口がひょいと顔を覗き込んで、思わず噴出しそうになってしまった。
間一髪、熱いコーヒーを喉の奥へと流し込む。

「……っ、チョコならさっき配ったでしょ?」
「あれは女子みんなからでしょ? そうじゃなくてさ、アンタから」

直球に今度こそ耐え切れず咳き込んだ。
どういうつもりで言ってんだろう。半分くらいこいつの言うことって意図が掴めない。

ああ、だけどチャンスなのに。
本当だったら、ここでさらっと手渡せたのに!
あの後もう一度店に駆け込まなかった私のバカバカバカ!

でももう手元にチョコもなく、周囲の目が気になる私に残された道は、ひとつしかない。
ふんと鼻を鳴らして、呆れた目をして。


「あるわけないでしょ。私がそんなイベントに乗るように見える?」


なんて可愛くないんだ、柚原小鳩!! もう泣きたい!!
このまま机に突っ伏したい衝動に駆られていたら、篚口は突然明るい笑い声を上げた。


「なっ、なに?」
「すげ、柚原さん。予想通りのリアクション」
「はあ!?」


このやり取りを予想してたってのか。てことは私、からかわれた!?
だけど私がかっとして怒鳴り返すより早く、ひとしきり笑い終えた篚口がポケットから何かを取り出した。


「これ、やるよ」


開かれた手の上には、小さくも可愛くラッピングされたバレンタインチョコ。


「今は逆チョコもあるんだって、知ってた?」


俺から、アンタに。

そう続けて、ぽかんとする私へと押し付けた。



「本命でも義理でも、柚原サンが困んないほうで受け取ってよ」



言うなりさっさと立ち上がって、自分の席へと戻ってしまった。
追いかけようにも休憩が丁度終わり、またタイミングよく笛吹さんが呼びに来ちゃったりで、声をかけることすら出来なかった。


困んないほうって、なんなの。
どういうつもりなの。


その言葉がぐるぐる頭を駆け巡って、その日一日、仕事が手につかなかったのは言うまでもない。





冗談なんて通じないよ

(もう知らないよ)(来月、本気のお返しするからね!)


title:はちみつトースト



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