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みずとくうきと、きみと。



「ん~、しあわせ」


満足げな声に眼鏡を額へ押し上げ、パソコンから隣へと目を移したら、柚原がうっとりと板チョコを噛み締めていた。

「また食べてんの? ホント柚原ってチョコ好きだよね」
「すきー。多分私、チョコさえあれば生きていけると思う」

俺がちょっと呆れ顔をしてるにも関わらず、相変わらずの至福満面の顔で頬張っていく。
柚原はこの情報犯罪課に配属になったときから、――まぁ実際はその前からだろうけど、チョコを必ず持っていた。
種類は日によって色々違うけど、お腹空いたといっては食べ、疲れたといっては食べ、よくも飽きないものだと思う。


「チョコばっか食べてると太るんじゃないの」
「うわっ、それ女の子に言う? 心配しなくても太らないよう、ちゃんと食事を削ってます~」
「俺が言えることじゃないけど、何か体に悪そうじゃね?」
「ほんとに言えることじゃないよ……。篚口なんか食事削ってパソコン触ってるくせに」
「……良く見てるね」


半眼で逆襲されて、思わず苦笑する。
確かに作業途中にするのが気持ち悪くて、休憩時間になっても動かなかったりするけどさ。
集中してて空腹に気付かないことも多いし。

「あはは! 篚口こそパソコンさえあれば生きてけるんじゃないの?」
「そんなわけないじゃん。幾ら俺だって飲まず食わずじゃ死ぬって」

あー、まぁ食べなくても平気かもしれないけど。
大体パソコンだけあったって、電気も電話回線もないんじゃただのゴミだ。



「じゃあ世界が滅亡したとして、篚口は何があったら生きていける?」
「なんか話飛んでね? せいぜい無人島とか言い出すとこだと思うけど」
「無人島って結構色々ある感じするし。だからホントの極限に迫ってみました」

そんな唐突に極限状態に迫られても。
さあ何が欲しい?なんてエアマイクまで向けられて、堪えきれずに噴き出してしまった。

「そうだなー……」


こみ上げる笑いを噛み殺して、柚原に改めて顔を向ける。


「じゃあ取り合えず、」





みずとくうきと、きみと。

(それだけあれば充分、退屈せずに生きられる)





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