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もしも本命だったなら


毎年この時期になると気になることがある。


「かっちゃんてさぁ、ホワイトデーにお返しってちゃんとしてるの?」
「あぁ!?」

両手に下げた紙袋一杯のバレンタインチョコを見てぽつりと問えば、ただでさえ鋭い幼馴染の三白眼が更に吊り上がった。

「いつも結構な量貰ってるでしょ?これいちいち対応してたら大変だなと思って」
「だったら追い打ちかけて持ってくんなやクソが!!」

余計な手間を増やすなとこれでもかと言う位睨まれる。
まぁ今持ってる片側の紙袋は私の持ち込みだからその態度も仕方ない。
かっちゃんの黙ってればイケメンな所に騙された女子から託されてきたものだ。
ちなみこの大量のチョコは甘い物が苦手な彼に代わっておばさんが様々な方法で処理してるらしい。

「一応私だってやんわり断ってはいるんだよ。甘い物嫌いみたいだよーとか」
「やんわりじゃなくがっつり断れや」
「そこは私にも友達付き合いというものがあってですね」
「ほお。天秤にかけた挙句俺を犠牲にしたってことか」
「犠牲だなんてそんな。でも毎年これで破産してたらちょっと責任は感じる」
「勝手に押しつけられたもんに何で返さなきゃなんねぇんだボケ」
「だよね、よかった。かっちゃんてたまに変なとこ律儀だからさ~」
「バカにしてんのかクソモブ!」
「いやいや、心配したんだって」

私が転校したから中学時代は知らないけど、小学校の頃かっちゃんは割と律義にお返ししていた。
まぁ今ほど数もなかったし、直接手渡される事ばかりだったから無視も出来なかったのかもしれないけど。



「そう言えば昔作ってくれたクッキーとかカップケーキとか、小学生が作ったと思えないくらい美味しかったなぁ。かっちゃんホント小さい時から器用だったよね」

思い出してじゅるりと舌なめずりをしたら露骨にドン引きした顔をされた。

「あんなもん美味いも不味いもねぇだろ。分量通りぶっこんで焼くだけだろうが」
「それだけって言うけどそれでも個人差ってものが出るんだよ。かっちゃんのが美味しすぎてもっと食べたくて自分で作ったら酷かったよ、色々と」
「そりゃテメーが規格外の下手くそだからだろ」
「失礼な!」

いやでも否定出来ないかもしれない。年を重ねたからと言って今なら美味しいお菓子が作れるかと言ったら正直怪しい。


「あ~……何か思い出したら食べたくなってきちゃった、かっちゃんの思い出の味。作ってくれない?」
「ふざけんな。そもそもテメーから何も貰ってねぇだろうが」
「逆チョコみたいな感じで」
「ンな面倒な前払いをなんで俺がしなきゃなんねぇんだ殺すぞ!」
「えぇえ……じゃあチョコ買ってきてあげたら来月でいいからくれる?」
「あからさまな義理チョコに手作りなんざ返すわけねぇだろうが!」

頭かち割るぞまで続けざま暴言を投げつけられるも子供の頃食べたあの味が忘れられず、思わず唇を尖らせる。

「え~……。じゃあ本命チョコだったら作ってくれるの?」
「……あぁ?」

鬱陶しそうに眉間の皺をこれでもかと刻んだ顔を此方へ向けて、けれど予想していた暴言は意外にも飛んでこなかった。
マジで言ってんのかと口には出さずにじろじろと不躾に向けられた視線が言っている。
此方の出方を伺うような、どこか期待しているようなその目に、考えるより先に言葉が追い打ちをかけた。

「ねぇ。もし本命だったら?」
「……っせーなァ……」

顔を背けてひとつ舌打ちを、それに紛れてぽつりと小さな声が聞こえた。



もしも本命だったなら

(……考えてやっても、いい)


2020/02/14
title:はちみつトースト



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