気まぐれに差す希望
「はよ倉持。……当たった?」
後ろの席に着くなり、新年の挨拶より先ににんまり笑って御幸がそう言った。
「……当たんねぇよ」
「そうか、おめでとう」
「ああ、明・け・ま・し・て・おめでとう!」
「今年も宜しくな」
引きつったとはいえ笑顔で返した俺はなかなかに成長したんじゃねぇかと思う。
新学期早々こいつとのやり取りにクラスの奴らの視線が一瞬向けられたけど、それももはや恒例化。
すぐに関わるまいと視線が散った。
それにしても思ってもねぇお決まりの挨拶をにやにやしながら続けてくるこいつは、多分本気で性格が歪んでる。
答えを知りながらもあえて新年の挨拶を後に持ってくるあたり、むしろ磨きがかかったんじゃねぇのか。
傷口に塩を塗りこむような質問から入りやがって!
すっかりふて腐れて御幸に背を向けた途端、場違いな明るい声が飛びこんだ。
「おっめでとー! なになに、あんた達またやってんの? 年明けても変わんないね~」
「……柚原」
「何よ倉持、何か新年早々暗くない? 顔が怖いんだからせめて笑顔でいなよ」
「余計なお世話だ! つーかテメェが無駄にテンション高いだけだろ」
「無駄じゃないよ! 明るい年にしようという日頃からの心がけだよ!」
「はっはっは、さすが柚原。今年も宜しくな」
「よろしくー御幸。倉持もね、宜しくっ」
何気なく目の端で御幸を見たら、さっきと同じく癇に障るにやにや顔でこっちを見やがったから机の下で思い切り足を蹴ってやった。
そんな水面下……もとい机下の攻防に気付かず、「そいじゃね~」なんて短い挨拶をすませて踵を返していく。
その柚原の背中を目で追って、ついつい口の中で舌打ちをした。
新年早々暗いって? ……誰の所為だと思ってんだよ!
年末、お前があんな事でかい声で言ってなきゃこっちだって気にしなかったんだ。
――――年賀状が、届かなかったって事くらい。
冬休みが近付くとちらほら年賀状の為の住所交換なんかが女子の間で見られるもので、柚原も例に漏れずその内の1人だった。
「年賀状ってさー、出す人迷わない? 出してない人から来た時がさ。遅れて出すのも気まずいし」
「あたしはメールで返しちゃうかなー」
「でもメールより年賀状の方が気持ち篭ってる感じしない? 私は遅れても全員返す派。ハトは?」
「うん? 私もメールかな。追加は出さない主義」
そこで止めとけばいいものを、良くも悪くも明け透けなあのバカは言いやがったんだ。
「私、年賀状は出したい人にしか出さないんだ」
けろりと口にしたそれが、実はお前を気にしてる奴とって結構な爆弾発言だとも気付かずに。
「言い換えれば柚原が特別だと思ってる相手にしか届かないって事かー。年明け一発目のおみくじだな」
俺の気持ちを知ってか知らずか(つーかこいつは確実に知ってる)(言ってねぇのに何でだ)御幸は楽しそうにそんな事言ってやがったけど、大吉か大凶しかねぇおみくじを強制的に引かされるこっちの身にもなってみろ。
何でバレンタインを1ヶ月も先走って味わわなきゃなんねぇんだ。
2ヶ月連続で消しきれねぇ期待を打ち砕かれんのか、俺は。
帰らなかった実家に届いたんじゃねぇかとか、元旦に間に合わなかったんじゃねぇかとか、諦めきれずにポスト覗いてた自分が笑える。
「住所聞きにくかったって事もあるんじゃねぇの?」
「柚原がか? 恥って言葉知ってんのかすら怪しいあの柚原がか?」
「はっはっは、まず無いな」
「テメェはフォローしてぇのか追い討ちかけたいのかどっちだよ!?」
まぁ確実に後者だろうけどな!
だんと机を叩いて抗議した後、今度こそぐるりと背中を向けた。
気がつけば担任が既に教卓前にスタンバイしていて、提出物を出せと口煩く言い始めた所だった。
誰に対してでもなく大きく溜息を吐いて、机の中に手を突っ込む。
持ち帰るのが面倒だった宿題の類は、冬休み中ここで仕上げてそのまま机の中に押し込んでおいた。
お陰で何ひとつ減ってない机の中はぎっしりで、必要なノートやプリントを取り出すのにも一度全部引っ張り出さないといけないのが厄介だ。
「………ん?」
力任せに引き出したノートや教科書と一緒に、何かが机の中から飛び出した。
ひらりと足元に舞い落ちたのは、今年の干支だろうデフォルメされまくったイラストが裏面一杯に描かれた――1枚の年賀状。
慌てて拾い上げ、まさかと勢いよく裏返す。
住所も郵便番号もないその宛先には、丸みがかった筆跡ではっきりと見慣れた名前が書かれていた。
"倉持洋一様 柚原小鳩”
気まぐれに差す希望
(少しは可能性があるって思っても、いいんだろうな?)
title:恋したくなるお題