人間は愚かなのだ
「ほらよ、柚原」
机にクッキーの小さな箱を置いたら、当の小鳩はきょとんとそれと倉持を見比べた。
たった今倉持がよこしたのは、“どうぶつクッキー”と書かれた子供向けの菓子である。
「何これ、くれんの?」
「先月貰っちまったからな」
わけがわからず首を傾げていた小鳩だが、先月という言葉で気づいたのだろう。あっと声を上げた。
「うそ、まさかホワイトデー?」
「ヒャハ! 有り難く受け取れよ、柚原!」
小鳩の反応に、倉持はさも満足げな顔をした。
先月のバレンタイン、確かに倉持は小鳩からチョコを貰っていた。
それも帰り際、
「誰からも貰えなかったら可哀相だもんね~」
という、余計な一言と共に。
その上投げ渡されたチョコは、コンビニか学校の売店で買ったであろう一口サイズのチョコの袋詰め。
義理も義理、だ。
(ヒャハハ! これが本当のお返しってもんだろ)
むしろうっかり期待してしまった事に対する仕返し、である。
包装すらされていない幼児向けのクッキーなど渡されたら、まぁ彼女のことだ。
当然先月の倉持のように、文句のひとつも言ってくるだろう。
そうしたら何て言い返してやろうか。
口角をあげたまま、クッキーの箱を見つめて呆然とする小鳩に視線を向け、逆に驚いた。
耳まで赤くして恥ずかしそうに、だけど嬉しそうにクッキーを受け取って、
「あ、ありがと倉持……」
ぽつりと口にする。
「お、おう」
(バカ、あんな物でそんなに喜ぶなよ)
拍子抜けと同時に何だかばつが悪くなり、倉持は逃げ出すようにそそくさと部活へ向かった。
一方の小鳩も、一口チョコに律儀にお返しがあるとは思っていなかったため、酷く戸惑っていた。
(参ったなぁ…。とりあえず自己満でチョコあげたかっただけなのに)
こんな事なら、とお互いこっそりとため息をつく。
――――もっと、ちゃんとした物をあげればよかった。