さあ、カウントダウンをしよう
帰る直前まで話していた人と一緒に帰るって言うのは、当たり前なんでしょうか。
――――否、だと、今日だけは思いたい。
「ヒャハ! お前も足止め食らってんのかよ、柚原」
昇降口で雨宿りしていたら、現れたのはよりにもよって苦手意識の強いクラスメートでした。
独特の耳につく笑い声も、いかにも男の子ですって感じの粗暴な言動も、女の子とばかり仲の良かった私にとってそれはもう恐怖で。
今みたいに声をかけられただけで、びく!ってなってしまったりするわけです。
だからなるべく関わらないようにしてたのに、この突然の大雨の所為でまさかの鉢合わせ。
会話もろくに続かない状態で、気まずい空気に耐え切れなくなった頃(多分5分も経ってない)(私的には1時間くらいだけど!)、
倉持くんがようやく
「待ってても止まねーし、俺傘借りてくるわ」
と事務室へ走っていったから、よしこの間に走って帰ろう!なんてほっとした、のに。
家まで全力疾走すれば10分もかからないし、所々で雨宿りしてけば思ったより濡れなくてすむかもなんて悠長にシュミレーションしていたら。
……あっという間に、帰ってきてしまいました。
状況、リセットです。さすが噂の俊足です。
挙句の果てに1本しかない傘を指し、
「借りてく奴多くて、これが最後の1本なんだと。ヒャハ! 心配そうな顔しなくても、ちゃんと家まで送ってってやるよ」
ちちち違う! 顔を引きつらせたのは不安が的中したからで!
だけどそんなことは言えるはずもなく。
断ることも出来ずに、結局一緒の傘の下にいるわけです。
狭い空間でさっきの沈黙が続いたら、家に着くまでに呼吸困難にでも陥るんじゃないかと思ったけれど。
倉持くんがひたすら喋ってくれたので、それは何とか免れました。
けれども彼の話はやっぱり野球が中心で、詳しくない私は聞き返してばっかりで。
何度も呆れ顔をさせたけど、怒られると思わず身構えた私に、倉持くんはぶっきら棒ながらもちゃんと説明してくれました。
もしかして、思ったよりも短気ではないの、かな?
「あの、送ってくれてありがとう」
玄関前に来て、ようやく相槌以外の言葉を言えた私に、倉持くんはおう、と目を細めてくれました。
「わざわざごめんね」
「ヒャハハ! わざわざじゃねーよ。通り道だ、通り道!」
だからつまんねー事気にすんな。
そう言って頭をくしゃっとしてくれた倉持くんの手は、乱暴だったけど何だか胸がほわっとしました。
「倉持くんの家も、こっちなの?」
「あー、まーな。おら、んな事より濡れるからさっさと中入れ」
しっしっ、なんて空いた片手で追いやられ、玄関のドアに手をかけて振り返ったら、倉持くんはじゃーなと既に走り出していました。
今来た道を戻っていく彼の後姿を見て、愚かな私はようやく気が付いたんです。
野球部は、雨でも室内で基礎トレーニングがある事に。
彼のシャツが半分、肌が透けるほど濡れていた事に。
そして何より。
――――彼が、寮生であったという事に。
私の中の苦手意識は、いつの間にか消えていました。