「届かなくてもいい」なんて嘘
「哲さんに好きですって言おうと思うんだ」
部活に行こうとする俺をわざわざ屋上に呼び出して、柚原がそう宣言した。
「ずっと話を聞いてもらってたから、決めたら倉持には一番に報告しようと思ってたんだ」
勿論結果も一番に報告するよ、と照れ臭そうに続けるこいつを見て、分かってた事なのに今更妙な焦燥感に駆られた。
今更。そう、こんな後悔も今更だって分かってんのに。
こいつが哲さんを好きだって知ってて、それでも相談役を買って出たのは俺だった。
本気で協力しようなんて思ったわけじゃねぇ。
どんな立場であれこいつの傍にいる時間が手に入るなら。
自分の想いを押し殺しても、隣に居られるなら。
――そんな目先の欲にくらんだだけだ。
「いーんじゃねぇの。さっさと言ってこいよ」
「なーんか投げやりだなぁ。頑張れよの一言くらいかけてくれてもいいんじゃない?」
不満そうに催促する柚原に、俺はイラついて小さく舌打ちをした。
俺の気持ちもしらねーくせに好き勝手言いやがって、と自業自得だと分かっていても文句の1つも言いたくなる。
相手は俺以上に部活中心だ。勝算なんかないに決まってる。
決まってんのに万が一の不安は拭えなくて、これ以上嘘でも背中を押すような言葉は言えなかった。
……言ってたまるか。当然だろ?
悪ィが俺は、”好きな奴が幸せならいい”なんて綺麗事を言えるほど、出来た人間じゃねーんだよ。
意地でもこいつが求めるようなことを言わない俺に、痺れを切らしたのか柚原が半眼を向ける。
「倉持~、今までも結構いい加減だったけど今日は更にどうでもよくなってない?」
「そんなことねーよ。同じだ同じ」
「絶対違うし! ~~アンタ、実は上手くいかなきゃいいとか思ってない?」
柚原にとってはただの冗談だろうそれは、思いもかけず俺の中の引き金になった。
「当たり前だ!!」
抑えていた何かが爆発して、気がついたら柚原を腕の中に閉じ込めていた。
このまま壊しちまうんじゃないかってくらい、力いっぱい自分の胸に押し付けてやる。
なすがままだった柚原の体が、その圧迫感から逃れようとぴくりと動いた。
無意識だっただろうその行動で我に返ったのか、ようやく俺を押し返そうともがき始める。
か弱いながらも精一杯の抵抗を感じて、俺は思わず瞼をきつく閉じた。
――――何で俺じゃ、ねーんだよ!?
「くらも、……ッ!」
柚原の両肩を掴んで、突き飛ばすように引き剥がしたら、その勢いに一瞬息を呑むのが聞こえた。
顔をあげられないまでも、こいつがどんな顔してんのかくらいは想像がつく。
今までにないくらい、俺はこいつを困らせて、情けねぇ面にさせてんだろう。
「……ヒャハッ……、バーカ」
乗せたままだった手を柚原の両肩からずるりと下ろして、その反動で俺はゆるゆると数歩後ずさりした。
引きつった頬を、口端を、無理やり吊り上げて、ともすれば泣き出しそうな顔を必死に作り変えた。
「テメーなんか、フラれっちまえ」
顔を上げると同時にいつも通り意地悪く笑って、俺はそのまま屋上の階段を駆け下りた。
「届かなくてもいい」なんて嘘
(ただの友達の振りなんか出来るわけねーって)(ちょっと考えりゃ分かったことだろ)
title:恋したくなるお題