会いに行くから待ってて
考えたことがある。
1度しか会えないんじゃなく、1度でも確実に会える日があるから、幸せなんだろうか。
こんなことを聞くのはさすがに恥ずかしくて、顔を背けたままそう聞いたら、石田は少しの間の後そっと口を開いた。
「………胡桃沢さんから連絡はないのか?」
「……ああ」
隣の鳴木市担当だっためばえは、尸魂界からの突然の帰還命令で現世から去った。
ずっとここに居るわけじゃないとは知ってたし、帰ったらもう会えないことくらいは分かっていたけど、それはあまりに唐突で、心の準備すら出来なかった。
穿界門が目の前で開いたとき、俺は多分酷く情けない顔をしていたに違いない。
帰らせたくなくて、だけど困らせたくもなくて、その矛盾が言葉を失わせた。
『それじゃ、またね一護くん』
そんな俺とは対照的に、めばえはいつもの別れ際のように笑って手を振った。
またね、と。
また。
――――――またって、いつだ?
「あの時、穿界門をぶっ潰しちまえばよかったと思った」
「……また無茶苦茶だな」
けど、と石田が溜息混じりに眼鏡を押し上げる。
「こんな所で彦星と自分を重ねてるよりは、よっぽど黒崎らしい」
目を丸くして石田へ顔を向けたけど、押し上げた手の陰で表情は見えなかった。
だけどその言葉は、からかいや皮肉とは違う響きだった。
「胡桃沢さんは死神だから尸魂界の掟には逆らえないが、君は比較的自由の身なんじゃないのか?」
言葉の意図を測りかねて見つめる俺に、石田は痺れを切らしたように眼鏡から手を外すと、顔を上げた。
「君は曖昧な約束を頼りに、大人しく待っている奴じゃないだろう」
このままでいいのかと、石田の目がそう続ける。
それに答えるより早く、俺は弾かれたように教室を飛び出した。
「一護、どこに…!」
「浦原さんとこ!!」
追いかけてきたチャドの声に振り返りもせずにそう答えて、俺は全速力で走った。
浦原さんの説得だとか、尸魂界からのお咎めだとか、問題は山積みだけど、そんなの全部後回しでいい。
今はただ、どうしてもあいつに会いたいんだ。