あと、一センチ。君まで一センチ
完全に魔が差したとしか言いようがない。
つーか、現在進行形で差してんだけど。
学校から帰ってきたら、こいつ――めばえが俺のベッドで熟睡してた。
多分暇になって遊びに来たのに、俺の帰りが遅くて待ちくたびれたんだろう。
いつもだったら、
「勝手に人のベッドで寝てんじゃねぇ!」
って叩き起こしてやる所なんだが、何気なく覗き込んだら、
………その、なんつーか。
あまりに気持ちよさそうな寝顔に、目が離せなくなっちまって。
死神もやっぱ寝るんだなぁとか
髪柔らかそうで触ってみてぇとか
あれこいつ寝てるといつも以上に幼くね?とか
そりゃもう色々色々考えちまって。
――――気がついたら。
穏やかな寝息に引き寄せられるように、顔を近づけてる自分がいた。
じりじりと距離が縮まるたびに、頭の中で警鐘がなる。
やべーって、めばえが起きたらどうするんだよ
言い訳できる状況じゃねぇぞ
大体、寝込みを襲うなんて最低だろうが!
けど体はそれに逆らって、一向にストップをかけようとしない。
警鐘はそのうち心臓へと降りてきて、早鐘みたいな鼓動に変わった。
それに伴って、
一瞬なら気付かねぇかもって都合のいい考えになって、
無防備に寝てるほうが悪ィだろって責任転嫁が始まって、
最後には、仕方ねーだろ男なんだから!って開き直りが支配した。
好きな奴を目の前に、理性ガチガチの男がいたら見てみてぇよ!
ここまできたら引き返せるか。
唇が近づくたび、罪悪感は遥か彼方に吹っ飛んでいった。