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最近普通科ではいわゆる推し活が流行っている。
その対象は先の大戦で活躍したヒーロー科の先輩達で、その中でも飛び抜けて人気があるのは轟先輩と爆豪先輩の2人だ。
お陰で教室の中は彼らの髪色をイメージさせる紅白やオレンジが溢れかえっていて、何色も纏っていない身としては少々肩身の狭さすら感じる。
目の前じゃ爆豪先輩推しの友達が新しくオレンジのハンカチを手に入れたと上機嫌で頬ずりしているわけで、本人が見たら嬉しいのか気持ち悪いのかどっちなんだろうと余計なことを考えてしまった。

「そういや小鳩ってこーいうのやらないよねぇ。気分上がっていいのに」
「違うの。わかるんだけど、出遅れたせいで今更っていうのが恥ずかしくて……」
「えー、気にしなくていいのに! 誰推しだっけ、轟先輩か!」

テンション高く前のめりになった友人の口をとっさに塞いで、へらりとごまかし笑いを浮かべた。
いやいや、気にしないなんて無理な話でしょ。恥ずかしいって。
ヒエラルキー上位の女子力高めな子達と違って、わたしは比較的地味で目立たない方なんだから。なんとなく同じことする引け目がある。
そもそも私の場合はみんなと違って中学の頃からの筋金入りで、その分かえって軽い気持ちで推し活なんて出来ないし、もっと言えばその他大勢と同じ程度と思われるのも嫌なのだ。
そんな複雑な――まぁ他人に言わせればこじらせてるだけなんだろうけど――気持ちを抱えてるから、みんなに気軽に便乗することが出来ないというのが本音だったりする。

「でもさ、遠方のプロヒとか芸能人じゃないし。同じ学校なんだからどこかで会うかもでしょ。そのときにちょっとでもアピール出来た方が良くない?」

どこかで会うも何も、あなた方は追いかけまくって教室にまで押しかけましたけどね!?
轟先輩が優しいからって迷惑かけるの本当にやめてほしい。
中学の時みたいなピリピリした轟先輩だったら絶対あんな馬鹿な真似出来なかったのに!
入学早々の騒動を思い出してちょっとだけムッとしたものの、正直な話そこまで堂々とアピールできる事には悔しいけど羨ましさも感じる。

――わたしも、何か。

こっそりでいい。何か轟先輩を好きだって言う、印を身につけたい。
これは戦いなのだ。地味子なりにプライドという物がある。
そうして考え抜いたのが、轟先輩の髪色を左右にイヤリングカラーとして入れることだった。
これなら普段下ろしていればぱっと見気付かれにくいし、これ以上ない推し活じゃないだろうか。
轟先輩の髪色よりはちょっと明るさを落とした2色をそれぞれ入れると、友達の言う通り嬉しいやらくすぐったいやらで鏡を見るたびうきうきしてしまった。

ただ問題は、わたしが人一倍チキンだという事。
ちょっとした優越感と、誰かに見つかって何か言われるんじゃないかってドキドキを抱えて学校医生活を過ごすのはやっぱり心身的によろしくないもので、わたしは心の安寧を求めて昼休みにはほぼ毎日教室を抜け出していた。
友達に気付かれると教室でデカい声でばらされそうなのであえて最初に言っておいたけど、ニヤニヤしながら髪の内側を覗いてくる視線に耐えられない。
そこから誰かに気付かれるのも恥ずかしくて、逃げてるうちにすっかり早食いが身についてしまった。

「人気のないところ探しすぎて学校案内できそうなレベル……」

ついでに体力もついたかもしれない。
そんなことを考えながら近場の自販機へと向かった。ここからなら中庭を抜けたところにあったはず。
ぐるぐる歩き回ったせいで残り時間も少ないだろうと校舎沿いに小走りした途端、脇道から出てきた人に思い切り吹っ飛ばされてしまった。


「ひえっ!?」
「! 悪ィ、大丈夫か?」


咄嗟についた手の平は少しすりむけたみたいでピリッとしたけど、後はまあ軽い打ち身とスカートが汚れたくらいだろう。

「だ、大丈夫です! 飛び出してすみません!」

ぱっと顔を上げたら、整った眉を心配げにひそめた轟先輩がいた。
――そう、どう見ても轟先輩だ。
わたしの偽物の色とは違う鮮やかな赤と白の髪、完璧すぎるバランスのご尊顔。紛れもなく、憧れの人。
こんな間近にいることが、ましてや彼の視界に自分が入っている事が信じられなくて座り込んだまま呆然と見上げてしまった。

「俺も話してて気付くの遅れた。立てるか?」
「割と派手にぶつかったな~。1年生? 怪我はない感じ?」

手を差し伸べてくれる轟先輩って恐ろしく絵になる。どこかの王子様みたいだ。
思わずぽけっと見とれていたけど、ふいに轟先輩の後ろから違う声がしたことにはっとして意識を取り戻した。
後ろからひょいと顔を覗かせている明るい髪色は上鳴先輩、だったはず。2人から注目されている事に頭の中が真っ白になる。

「あっ、あっ、た、立てま、怪我もっ」
「慌てなくていいぞ」

あたふたと体勢を整えようとしたら、差し出されていた手がわたしの片腕を掴んでそのまま引き上げる。
目の前に迫った轟先輩の顔に息をするのもままならずにいたら、「お、」という呟きと共に色違いの目が少しだけ見開いた。そしてゆるりと細められる。


「髪、お揃いだな」


一瞬何のことか分からなかった。……が、久しぶりに上を向いたことで視界の端にちらついたくすんだ紅白が、自分のなけなしの勇気で染めた髪だと気付き、さぁっと血の気が引いていく。
引き上げられた事でインナーカラーが顔を覗かせたのだ。
そして認識された。
好きな人を真似た偽物のこの髪を、よりによって本人に。

「す、すみませんでしたっっ!!」
「あ、おい……」

急激に襲ってきた恥ずかしさと申し訳なさで、一目散に元来た道を駆け戻った。
もはや擦りむいた手の平や尻餅の痛みなんか感じるわけもなく。
絶対気持ち悪いと思われたに違いないと、そのショックと後悔だけが脳内を占めていた。




一方でその場に残された轟と上鳴はぽかんと後ろ姿を見送った後、予鈴の音に我に返って教室へと向きを変えた。

「行っちまった……。怪我はなかったみてぇだな」
「なーんかすっげぇ慌ててたな。轟が何かした……って事はねーよな?」

轟に限って、と上鳴がちらりとこちらを見上げたので首を横に振って否を示す。

「……あ。そういや俺と同じ髪色だったぞ」
「は? 轟と? 普通の黒じゃなかったっけ」
「内側のこの辺だけ赤と白だったんだ。家族以外で同じ髪色見るの初めてだったから何か嬉しかったな」

自分の耳の辺りを指で差しながら口元を綻ばせた。
赤と白という組み合わせは、多種多様なこの世界でもかなり珍しい。だからつい口に出してしまった。
ところが上鳴は何かしら思い当たったらしく苦笑いを浮かべる。

「……あ~、轟それってさぁ、天然もの?」
「何がだ?」
「いや、だから髪。多分染めてんじゃね? あの様子からして轟のファンなんだと思うよ。結構ガチな感じの」

ないわけではないだろうが、あまり染髪に馴染みがなくなっただけにすぐには思い当たらなかった。
なるほどとひとつ頷いて先程の女生徒を思い浮かべる。まだ新しさの残る制服だった。

「……1年、だよな」
「多分そうじゃね? ちょっと初々しい感じだったし」

小柄で、内気そうなのにやる事は以外と大胆で、どことなく――……

「何か緑谷に似てねぇか?」
「え、顔……じゃないよね。あ、もしかしてあのあたふたしたとこ?」

言われてみれば似てるか?と首を傾げた上鳴にそれとばかりにひとつ頷く。


「……クラスと名前、聞いときゃ良かったな」


何かの折に1年のクラスを覗いてみるか。

ぽつりと呟いてとっくに見えなくなった後ろ姿を探すように、肩越しに後ろを振り返った。




意気地なしの勇気

(この日以来、わたしの世界が変わるなんて思わなかった)


title:Discolo



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