「柚原、これ貰ってくれ」 先月14日に似たそわそわとした空気がそこはかとなく漂う、3月14日ホワイトデー。 お昼も食べ終わり春を感じさせる温かい日差しが漸く窓から入り込むようになったと思ったら、きらびやかな紅白髪がそれを遮った。 「え……、轟くん? なに?」 お腹が膨れホカホカしてきた窓際の机のお陰で若干眠くなってただけに、ちょっとぼんやりしながら聞き返す。 それを相変わらずのクールな表情のまま見下ろしながら、トンと机の上に置いたのは小さな紙袋だった。 「なにこれ?」 「今日はホワイトデーだろ。柚原に」 「えっ」 意外過ぎる単語が彼の唇から紡がれたことに思わず素っ頓狂な声が出た。何なら驚き過ぎて丸まってた背中まで一瞬にしてピンと伸びる。 「ホワイトデー知ってたんだ?」 「毎年言われるからな。さすがに覚えた」 「ひぇ~、轟くんて律儀にお返ししてるの? 絶対毎年すっごい数貰ってるよね?」 「まぁ……。なるべく断るようにはしてんだけどな」 それでも受け取るだけでいいからと押し付けてくる子や、黙って机や靴箱に突っ込んでいく子も少なくないらしい。さすが雄英きってのイケメン。 「出費が凄そう……」 「そうでもねぇ。ほとんど返したことねぇからな」 受け取る時にもちゃんと返せないといってあるらしい。 きっとみんな渡すだけで満足で、特に見返りは期待していないに違いない。本命の子ももちろんいるだろうけど、芸能人にファンレター送る感覚の子もいそうだしね。 「え、じゃあこれってめちゃくちゃレアなんだね。恐れ多いと言うかなんというか……」 目の前の紙袋を見つめて頬がひきつった。受け取りを急かすように突き出されてもおいそれと手を出す事なんてできない。 そんな特別な物を私なんかが貰うわけにはいかないのでは。ファンに殺されそう。 「あの……凄く言い難いんだけど轟くん……」 「なんだ?」 だって、―――だって。 「私、バレンタインに誰にもチョコ渡してないんだけど……」 誰かと勘違い、してませんか。 彼に恥をかかせるのも申し訳なくて、少しだけ顔を寄せてギリギリ聞こえる程度の小さな声で告げてみるも思考停止しただろう彼の顔を見ることが出来ず、言ったこっちの方が妙な汗と動悸に襲われてしまった。 こ、この沈黙―――っ!! 気まず過ぎない!? いっそすっとぼけて貰っちゃえばよかった!? 自分が悪い訳でもないのにごめんねごめんねと胸中で必死に謝ってたら、ようやく彼の口から「……あぁ、」と納得したような声が漏れた。 「バレンタインのお返しじゃねぇ。ホワイトデーにただ俺がお前にやりたかっただけだ」 「……へっ?」 「ホワイトデーってお返しじゃなきゃいけねぇのか?」 「……いや……そうかな? どうなんだろ?」 今や逆チョコなんてパターンがあるからホワイトデーはお返しだと思い込んでいたけど、所詮はお菓子会社が作ったイベントだし何でもいいのかもしれない。 「先月お前からチョコ貰えたら嬉しかったけど、貰えなかったから俺からやることにしたんだ」 「……えっと、なぜ私に……」 いまいち状況が飲み込めないで目をぱちくりさせていると、轟くんは不思議そうに首を僅かに傾げた。 「バレンタインやホワイトデーって、好きな奴にチョコや菓子をやる日じゃねぇのか?」 サラリと告げられたその言葉に、鈍い私の頭のてっぺんがどかんと噴火を起こした気がした。 「1年かけて口説き落としに行くから。来年のバレンタインにお返し待ってる」 踵を返す直前、少しだけ口角を上げて残していったその台詞に再び私の頭が爆発したのは言うまでもない。 渡してないのにお返しが来た (この日から彼の猛アタックが始まるなんて、思いもしなかった) title:TOY BACK← →NEXT