今日は何の日?
部室に入るなり、俺の分だとビニール袋を押し付けられた。
「瀬見さん、今日何の日か知ってます?」
「ポッキーの日って言うんだろ」
何故か不服そうな工に即答すると、「正確にはポッキーとプリッツの日だけどネ」と天童が細かく突っ込んでくる。
押しつけられた袋の中には差し入れと称したポッキーやプリッツが詰め込まれていて、部屋の隅には同じように袋分けされたポッキー達が段ボールに詰められていた。
恐らくこれから来る部員に分けられるんだろう。
そういえばこのプチバレンタインともいえるイベントも、毎年恒例だった事を思い出した。
普段差し入れしない子でも、この日はイベントに乗っかって気軽に送れる気になるらしい。
「そう言えば教室でもポッキー貰ったんだよな。今日だけで1年分くらいあるんじゃないか?」
「そうですよ! たかが企業の勝手に作ったイベントに乗るのやめてもらいたいですよね!」
「なんでお前はそんなに怒ってるんだよ工。ポッキー嫌いなのか?」
「工はバレンタインと同じ意味を持つと思って、受け取る時に恥かいたんだよネ~」
「ちょっと天童さん!!」
途端に顔を真っ赤にして抗議する後輩を見て、成程と苦笑する。
思い込みの激しい所のあるこいつのことだ。告白と勘違いして先走って返事をしたんだろう。
「まぁ工の気持ちもわからなくはないよな。菓子とは言えプレゼントだし」
「大体カレンダーにも乗らない程度のイベントを全員が知ってると思うのがおかしいんですよ!」
「一理あるな」
うんうん頷きながら話を聞いてやってたら、天童が読んでいたジャンプから顔を上げにやりとした。
「さっきからやたら庇ってるけど、もしかして英太くんも似たような勘違いしたんんじゃないの」
「は!? しねーよ変な勘繰りすんな!」
「そうやって慌てるから怪しいとか言われるんだよネ~」
「言ってんのはお前だろ!」
もしかしてと期待の目を向けてくる工に違うと改めて首を横に振った。
そう、俺は工みたいにバレンタインと間違えたわけじゃない。……が、勘違いをした事はぶっちゃけある。
と言うのも、今日11月11日は俺の誕生日だからだ。
先に言っておく。ポッキーの日以上に自分が有名だとか自惚れてるわけじゃない。
けど、貰えるものは例えどんなものでも誕生日プレゼントかと一瞬思ってしまうのは仕方ないとわかってほしい。
むしろポッキーのせいで誕生日を忘れられる俺って結構不憫じゃないか?
そんな言い訳を胸中で連ねていたらコンコンとノックの音がした。
「ごめん、入るよ~」
ドアが開いて顔を覗かせたのは畳んだビブスを抱えたマネージャーの柚原だった。
途端に仲間探しに必死な工がここぞとばかりに食いついていく。
「あっ、柚原さん! 柚原さんは今日何の日か知ってますか!?」
「今日? 知ってるよ」
そりゃそうだろう。このポッキーの山を分けたのは多分柚原だ。
机に洗われたビブスを置くと、当然と言わんばかりの笑顔を浮かべてくるりと此方へ振り向いた。
「瀬見の誕生日でしょ?」
「……!」
おめでとうと続ける柚原を見て、工と天童が小さく「えっ」とか「あっ」とか声を上げる。
いやまぁお前らが覚えてるとか期待してないから焦んなくていいけどな。
「あとポッキープリッツの日~。ってことで、プレゼントはポッキーでごめんね」
「お、おうサンキュ」
「結局ポッキーなのそこ」
俺の手にぽんとポッキーの箱を乗せるのを見て天童が半ば呆れ顔で呟く。
「そこで特別なプレゼント用意してないのが柚原チャンだよネ~」
「……充分特別だよ」
口の中でぼそりと呟いた言葉は幸いにも天童には届かなかったらしい。
緩みそうになる口元を必死の思いで引き締めて、そのポッキーだけを鞄の中へと仕舞いこんだ。
今日は何の日?
(覚えててくれた、ってそれだけなのに)(一番のプレゼント貰った気分だ)
title:Discolo