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二度目の奇跡が無くたって



また強い風が吹いたのかと思った。
緊張でガチガチの私の手から面接の案内用紙を吹き飛ばしておいて、まだ足りないのかと。


「これ……っ! ……あ、貴女のです、よね?」


2度目の風を巻き起こしたのはあどけない顔をした青年だった。
勢いよく振り返った割におずおずと差し出してきたのは、空に舞った私の案内用紙。
走ってそれを捕まえてくれたんだと脳が理解するまで、一瞬の間が出来てしまった。

「そ、そうです! 有り難うございます!!」
「あ、いえ、車道まで飛ばされなくてよかったです。そ、それじゃ俺はこれで」

ぺこりと頭を下げてそそくさと走り去ってしまった彼は、その短い時間で私の心を鷲掴みにしてしまった。



「……で? 結局その後の面接はどうだったわけ?」
「いやそれは……って言うかあのさ、今その話してないよね。私が言いたかったのは出会いの話でさ」
「落ちたんだ。アンタこれで何社目よ」
「14社……だけどそれはいいの! もうホントに雰囲気が可愛くて優しさが滲み出てる感じでさ、面接前じゃなければ名前くらい…ってちょっとナオ! サッカー雑誌なんか読んでないで真面目に聞いてよっ」

雑誌から一向に視線を外そうとしない友人からその元凶を取り上げる。
男子高生じゃないんだからこんなのに夢中になってないでほしい。

小鳩こそ少しは地元応援しなよ。最近調子いいよ? ETU」
「知らないし。サッカー興味ないし」


そんな違う世界の人よりも私は現実的な彼氏が欲しい。
ああ、またあんな奇跡が起きないものか。
あれから何度も同じ道を歩いてみたけど、あの時の彼を見かけることは一度もなかった。
就職も恋もダメでしたなんて、あんまりじゃないか神様。

へこむ私を余所に、「これこれ」とナオが取り返した雑誌を開く。
どうやらナオ一押しのETUの記事が書かれたページらしい。
内心どうでもいいと思いながら横目を向けたものの、そこに載っていた写真を見て目を見開いた。

「ちょっ……! これ、この人っ!!」
「え? どれ? 7番椿?」

赤くなってぎこちない話し方をしていたあの時とは全く表情が違うけど、間違いない。


「……サッカー選手だったんだ……」


呆然と呟く。
あの時の彼がプロサッカー選手だったなんて誰が思おうか。
普通に短大に通って普通にどこかに就職しようとしてる人間には、スポーツ選手と関わる事なんてないに等しい。
幾ら地元にクラブやスタジアムがあろうと、フェンスで仕切られた向こう側じゃ芸能人に恋してんのと大して立場は変わんないよ!
じゃああの時はたまたま何かの用事で居合わせただけだったんだ。会えないはずだ。
がっくり肩を落としかけた私に、ナオが椿かーなんて写真を眺めながら小さく口にする。


「練習見に行けば? 終わってから握手やサイン貰えたりするし、通えば顔覚えてもらえるかもよ」
「そんな子いっぱいいるでしょうが」
「椿はまだそれ程でもないんじゃないかなー。元々ETUって女子サポ少ないし」

そう言いながらナオが頬杖をついた体制のまま、ちらり、目線だけ此方に寄越した。

「会いたいんじゃないの? 偶然に期待して落ちた会社への道を通うより、よっぽど現実的だと思うけど」

……一言余計だ。



「あたし今日寄ろうかと思ってるけど、小鳩も行く?」


雑誌をあたしに押し付けて、どうすると首を傾げた。
会いに行った所で、私の事なんか覚えてもいないだろうけど。
きっとどうしたって手の届かない人だけど。
それでも、偶然に期待するのはもう無駄だってわかったから。だから。


「……――行く!」


押し付けられた雑誌を胸に抱き締めて、ぐいと顔を上げた。




 
二度目の奇跡が無くたって

(だったら今度は“必然”を作ってみせるまで!)



title:恋したくなるお題



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