今の言葉をもう一度
マジか。何だこれ、夢じゃねぇのか。
鍵がかかっている所為で今は人気のない屋上へ続く階段、そこに連れ出されても目の前の状況がしばらく飲み込めなかった。
「今付き合ってる人いないなら、私と付き合ってくれない?」
上目使いでそう言ってくれてんのは、話した事もねぇから曖昧だけど多分隣のクラスの女子。
これまで昼休みに呼び出されるなんて御幸ばかりで、てっきり今日もそうだと思っていたから驚いた。
何だこれ、これが甲子園効果って奴か。やべえな。
初の告白に感動と興奮で舞い上がってたら、「どうかな?」ってダメ押しの甘えた声。
結構可愛いよな、この子。特別美少女って感じじゃないけど男心擽るのが上手いっつーか。
大抵の奴は簡単に頷いちまうんじゃないかと思う。
思う、――けど。
「あー……悪ィ、ちょっとそう言うの考えらんねーわ」
迷いながらもそう口にしたら、むっとした様に唇尖らせた後走り去ってしまった。
ちょっと待て、そこで怒るのかよ!?
そりゃまぁ俺如きに振られるなんて思ってなかったんだろうけどよ!
これでまた教室戻ってまた御幸にからかわれんだ。……うぜぇなあいつ。
取りあえず泣かれなかっただけマシだ、そう思いこんでぐるりと踵を返す。
「……ッ柚原!?」
「わっ!? ご、ごめん!」
振り返った勢いのまま角を曲がったら、目の前に柚原が居て、激突を避ける為に慌ててのけぞった。
「お、お前何でこんなとこにいんだよ」
「や、あの、ちょっと裏庭の自販機行こうとしたらタイミング悪くて出れなくなっちゃって」
「はァ!? じゃあ今の聞いてたのかよ!?」
「ご、ごめんホント! でも偶然だから! わざとじゃないから!」
「しっかり隠れて聞いといて偶然はねーだろ!」
「違うの、物音とか立てて邪魔しちゃいけないと思って! 聞くつもりじゃなかったの!」
本当にごめんと両手を合わせて何度も頭を下げる柚原を見て「もーいーわ」と溜息交じりに告げた。
まだよかった、キッパリ断った所で。デレデレしてるとこじゃなくて。恥ずかしいのはかわんねーけど。
ちらりと柚原を見たら、ちょっと言い辛そうにしたくせに
「倉持って……意外とモテるんだね……」
なんて小さいながらもしっかり声に出してきやがった。意外で悪かったな。
「モテねーよ。あれだ、甲子園効果って奴なんじゃねぇの。他の連中もちらほらあるみたいだしよ」
実際甲子園出場が決まって以来、それまで全く興味持ってなかっただろって女からも向けられる視線が違う。
正直俺なんか告白どころか、教室に居ても怖がらずに近寄ってくる女子なんざこの柚原位だったのに。
まぁだから、あれだ。今になって唐突に言われてもその辺の女と付き合おうなんて気になれるわけがない。
単純だと言われようとも、一番気兼ねなく言い合えるコイツの事を当然の様に好きになっちまってんだから。
とは言え当の本人は俺の気も知らず探る様な視線を向けてくる。
「ちょっと勿体ない事したなーって思ってる?」
「ばっ、思ってねーよ! 甲子園に釣られる様な女!」
「それでも誰でもいい訳じゃないと思うけど」
どことなく相手の女を庇う様な不満げな口振りに、さっきから引き摺る浮ついた気分も手伝って
「ヒャハ! なんだよ、お前も俺に好きだって言いたかったとか?」
思わず希望が口から飛び出した。
「絶対言わない」
「じょ、冗談に決まってんだろ。真顔で言うんじゃねーよ」
浮ついた気分が一気に覚めた。何だこの大火傷。
じろりと非難する様な目を向けてから柚原がスカートを翻す。
「今言ったら、甲子園効果だと思われるでしょ。絶対言わない」
背中を向けたままはっきりとそう言い捨てて、俺が口を開くより先に階段を駆け下りた。
――――は? 今なんつった、あいつ!?