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これって禁断症状?


鬱陶しいと言う訳じゃないけど。

「降谷、今から部活?頑張ってね!」
「……うん」

正直、面倒臭いと思ったことはある。
部活なんか毎日あるし、マウンドに立つために頑張るのは当然だし。
毎日毎日試合でもないのに、

「部活、頑張ってきなよ~」

そう言ってくれる柚原さんを見るたび、わざわざそんな事言わなくてもいいのに、なんて。



「なんか、返事するのが面倒臭い……」
「テメーは贅沢いってんじゃねー!」

部活中に思わず零したら、後ろからどすっと沢村の蹴りが入った。

「……痛いんだけど」
「倉持先輩直伝だから当然だ! つーか声援貰っといて何が不満なんだよ」

別に、不満なわけじゃない。何となくいつも同じこと答えるのが変な感じするだけで。
もしかしたら、勉強しようとした時に限って勉強しなさいって釘刺されるのに似てるのかもしれない。
出鼻を挫かれてる感じがするんだ、きっと。
そう思ったら、時々聞こえない振りをして教室を出るようになってしまった。
本当に、時々。
だから彼女もそれとは気付かずに、変わらず声をかけてくれていて。



「降谷~、はるっち~、部活行くぞーっ」

HRが終わるなり沢村が廊下から声を張り上げて、いつものように溜息混じりに席を立つ。
あれ、恥ずかしいからやめて欲しいんだけど。
でもどうせ言っても聞かないだろうから、抗議は諦めて小湊と一緒に大人しく教室を出ることにした。



「…………あれ?」
「なんだよ、何か忘れたのか?」

違和感を感じて階段の手前で立ち止まった僕に、沢村が首を傾げる。
忘れ物は多分ない。部活で使うものは確実に持ってる自信があるし、教科書なんかは教室に置きっぱなしだ。
でも、何かが落ち着かない。スカスカする。
こういう時は一度戻ってみるべきなのかも。

「ごめん、先行ってて」

言うが早いか、今来た道を早足で戻った。妙な焦燥感。
落としたパズルのピースをひとつひとつ拾い集めていくように、胸の奥がドキドキする。
勢いよく教室のドアを開けたら、思ったより響いた音に残っていた生徒が全員振り返った。
その中に数人の女子と話していた柚原さんの姿が目に入って、何かを思うより先に体が向かった。



「な、何? 降谷」

目の前で立ち止まった僕を、ひたすら目を丸くして見上げる。

「……今日、まだ聞いてない」

いつもの。そう続けたら、見開いていた目を今度はぱちぱちと瞬かせた。
あ、何か可愛い。


「え? ええ!? だって降谷迷惑そうじゃなかった? だから今日はやめたのに!」
「別に迷惑なんて思ってない」


でも面倒だとは思ってた。
別に言ってくれなくてもいいとも思った。

なのになんで、今はこんなに彼女の口から聞きたいんだろう。
黙って次の言葉を待ったら、柚原さんは暫くぽかんとした後、やがてぐっと拳を握っていつもの笑顔をみせてくれた。

「部活、頑張ってね降谷!」
「うん」
かちりと最後のピースが嵌ったような満足感。


なんだろう。



あれだけ返事をするのも面倒だと思ってたのに、今はちょっと心がほくほくした。





 
これって禁断症状?

(君の声がいつの間にか当たり前で、必要不可欠なものになっていたんだ)



title:恋したくなるお題



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