誰を見ているのか知ってるよ
六車隊長が九番隊に戻ってきた。
「ちょっとおおお修兵! 私を! 九番隊に! 呼ぶって約束はどうなった!?」
胸倉を掴んで力任せに揺らしてやったら、修兵は頭をぐらんぐらんさせながら降参とばかりに両手を上げた。
「ちょ、ちょっと落ち着け! 仕方ねぇだろ、希望が通るとは限らな……ぐぁっ!」
「あんたが隊長代理についてたから、権限あるうちに乱用してって言ったのに! 役立たず!」
怒りに任せて力一杯締め上げてやったら、思った以上にまともな絞め技になってしまったらしい。
一瞬修兵が白目をむきかけた。
「も~……、ずるいよ修兵ばっかり。私だって六車隊長の下で働きたいよ」
「俺だって毎回お前の異動願い出してるよ。もう暫く待てって」
さすがに幼馴染みを殺すわけにはいかないと手を放したら、修兵はケホケホとむせ返りながらも、落ち着かせようと私の肩を軽く叩いた。
修兵と私は幼馴染みで、同期にあたる。
幼い頃2人揃って六車隊長に命を救われて以来、その憧れの隊長を追いかけて死神になった。
なのに卒業してみれば修兵は念願の九番隊、私は何故か十番隊へ配属。
十番隊はみんな仲良くて居心地がいいし、日番谷隊長は強いしカッコいいしで不満はない。
ないけど、だけど!
やっぱり一度くらい、憧れの人の役に立ってみたいと思うのは乙女心じゃなかろうか。
勿論、配属された頃には六車隊長は既にいなかったし、今回も戻ってくるとは知らなかった。
だからいつか彼のいた隊に所属出来たら、位ののんびりした気持ちだったけど、本人が戻ってきたなら話は別だ。
「修兵! 次こそ頑張ってよね!」
「へいへい。まぁ、一応話はしてみるよ」
いまいち頼りない同期の返事に、もう一言文句を言ってやろうと思ったけれど時間切れ。
サボりに気付いた日番谷隊長に仕事しろと後ろから唸られて、渋々そのまま隊舎に戻る事になった。
そんな私の後姿を眺めながら、日番谷隊長が不機嫌そうに溜息を吐く。
「あいつはまだ九番隊に呼べって言ってんのか」
「まぁ、憧れの六車隊長が復任したんじゃ仕方ないんじゃないスか」
「…………あいつはやらねぇよ」
「言うと思いました」
苦笑交じりの修兵が、日番谷隊長と何度目かのそんな話をしていたなんて、………知る由もない。
誰を見ているのか知ってるよ
(それでも渡したくねぇと思うんだ、仕方ねぇだろ)
title:恋したくなるお題