どうか今、君が泣いていませんように
好きだと伝えた時、あいつは少し困った顔をした。
「私も一護くんが好きだけど、…私は死神で、一護くんは人間なんだよ」
だから一緒にはいられないんだと、酷く悲しそうな顔をした。
親父が死神だと知ったとき、黙ってた事に対して怒りなんか起きなかった。
それどころか、死神と人間との間に壁なんてないんだと喜んだ。
なのに。
「めばえ」
聞こえない。
「……めばえ」
あいつの声が聞こえない。
どれだけ名前を呼んでも、それに答える声が。
霊圧を感じない世界は、こんなにも静かだっただろうか。
こんなにも広かっただろうか。
「傍に、いるのか?」
家の前で1人呟けば、しんとした静寂だけが返った。
最後と覚悟して離れたのはこれが初めてじゃない。
めばえが尸魂界に呼び戻された時も、もう会うことは出来ないと告げられた。
だけどそれでも心のどこかで思ってたんだ。
またいつか会える。
同じ世界を見ている限り、いつか連れ戻しに行く事が出来ないわけじゃないんだと。
「めばえ」
今はもう、違う。
思い出すのは、一緒にいられないと呟いた時の、今にも泣き出しそうな顔ばかり。
「……。…………ありがとな」
空を見上げて、躊躇っていた言葉をようやくの思いで口にした。
ぎこちなくも持ち上げた口角は、笑顔に見えているだろうか。
あいつは同じように返してくれているだろうか。
――――ただ、願った。