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きっと僕は涙が枯れるまで泣くのだろう



現世に正体不明の虚がでたとは聞いていた。
先遣隊の行方が途絶え、席官クラスが出向くことになるだろうとも。

「九番隊からは、三席を」

―――――三席。

「あたし、行くよ」

執務室に呼んで下された命令を告げたら、当の三席はけろりとした答えを返した。

小鳩!」
「席官が仕事を選ぶものじゃないって。むしろ光栄だと思わないとさ」

こっちがどれだけ心配してるのかもしらねぇで、何の危機感も持たず、いつも通りの笑顔を見せる。
それが余計に神経を逆なでした。ぎゅっと眉根を寄せる。

「先遣隊が帰ってきてねぇんだぞ」
「だから二の舞にならないよう、その危険の低い席官を選んだんでしょ?」
「そうだけど……、何もお前が行くことねぇだろ。他の奴と変えてもらうよう言ってくっから」
「あのねー、副隊長ともあろう者が私情を挟んでどーすんの」

小鳩が呆れたように溜息まじりで吐き出した。
わかってるよ。わかってるけど。

「副隊長は幼馴染みの心配しちゃいけないのかよ」

ガキの頃から一緒で、同じように育って、同じように死神になった。
隣にいた時間が長ければ長いほど、大切に思うのは当然のことで。

「何かあったらどうすんだよ!」

思わず声を荒げた俺に、小鳩は目を丸くして一瞬息を呑んだ。
「何かあったら……」
やがて静かに、笑みと共に口を開く。

「そのときは、あたしの為に泣いて。修兵」

失いたくなかったと、必要な人間だったと、自分を惜しんで泣いて欲しい。
そう、小鳩は言った。

「修兵が一杯泣いてくれたら、私もここにいた意味があったと思えるから」

死んでからしか自分の存在価値がわからないなんて、どうしてお前はそう不器用なんだよ。

「――お前が居なくなっても、泣いてなんかやらねぇよ」

搾り出すように告げたら、小鳩の顔が悲しげに歪んだ。

「その代わり、死ぬなって泣いてやる。ちゃんとここに帰って来いって泣いてやる」

華奢な体を自分の胸へと引き寄せて、力一杯抱きしめた。
ここに今こいつがいるんだと、ただそれだけを実感したくて。

「泣くことでしか価値が測れねぇなら、俺が今、幾らでも泣いてやるから」

閉じ込めた腕の中で、小鳩が小さく俺の名を呼んだ。




きっと僕は涙が枯れるまで泣くのだろう

(だからどうか)(お前自身を必要としている、俺の存在に気付いて)





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