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今に見てろと敗者は笑う


「いや~、たまにはいいよな!こういう祭りも!」


駅前の通りにずらりと連なる露店を眺め、城之内は上機嫌な声を上げた。
童実野町と言えば海馬コーポレーションの城下町。
催しと言えばほぼこの会社が関わっていると言っても過言ではないが、今日の祭りは小規模ではあるが昔から続く地域主催のものである。
地元の店が駅前通りに集まり出店する、地元交流や町興しの一環として定期的に続けられてきたものだ。
夜遅くまで続けられるものではないが、露店を横目に歩くだけでも随分と楽しめる。

「さーて何から行くか。たこ焼き焼きそば、チョコバナナっと」
「どれも食べ物ばっかりじゃない。城之内、お腹空いてんの?」
「屋台っつったら食い物だろ。まぁ射的とか輪投げも俺は結構得意だけどな」
「ゲーム系も増えたよね。僕の家は出店してないけど、隣町のおもちゃ屋とかも今回多く参加してるらしいよ」
「へぇ~。確かにこの辺りじゃ見ない店の名前が……――ん?」

遊戯の言葉に改めて露店を見回した城之内の目に飛び込んだのは“カードショップ”ののぼりである。
デュエリストとしてはどうしたって気になるその単語に、隣の遊戯と目配せすれば杏子と本田に一言掛ける間もなく足早に其方へと向かった。
屋根の下に棚やボードを使って所狭しと並べられたカード達に思わず目が輝く。
そんな城之内と遊戯に屋台の隣に置かれた机から身を乗り出す様にして、恐らくは同い年かと思われる少女が笑顔を向けた。


「いらっしゃいませ! レアカードもあるから良ければ見ていってね」
「あ、こんにちは。……君はここのカードショップの人?」
「ううん、体験会と売り子を頼まれてはいるけどただの常連。店長が休憩入ってる間、店番してるんだ」

成る程、時間は昼を少し回った所だ。食べ物関係へと客足が流れ余裕が出来た所で交代で昼休憩を取るつもりでいるのだろう。
それはともかく、耳慣れない言葉に城之内が首を傾げる。

「体験会? ……って何のだ?」
「デュエルモンスターズって知ってる? ルール教えるからちょっと遊んでみましょってコーナーなの。良ければどう?」
「え? 僕とデュエルを?」
「構築済みのストラクチャーデッキっての言うを使うから、デッキ持ってなくても心配ないよ」

そう言ってカードの束を取り出した彼女に思わず4人は顔を見合わせた。
彼女が何の気なしに誘ったのは初代デュエルキングの肩書を持つ武藤遊戯。一見小さくて大人しく見える彼からはとても想像がつく物じゃない。
さてどうしようかと眉を下げる遊戯を見るや、城之内が代わりにとばかりにずいと進み出た。


「なぁ、体験会をやるって事はアンタもデュエリストなんだろ?だったら俺とデュエルしねぇか。こう見えてちっとは名の知れたデュエリストなんだぜ」
「え? そうなんだ。ごめんね、店内で遊んでる程度だからその手の情報に疎くて」

つまりは大会には出ていないという事だ。道理で見ない顔だと城之内は胸中で頷いた。
(こんな可愛い子いたら絶対忘れねぇしな……)
そもそも女性デュエリストと言うだけで随分と珍しいのだ。腕前はともかく、大会に出ればそれだけでも目立つ。


「でもデュエルは大歓迎だよ。じゃあお互い自分のデッキでやろうか」
どうぞと向かいの椅子を勧められ、意気揚々とデッキを取り出した。念入りにカットしながらちらりと向かい合った彼女へと目を向ける。
「と、ところで俺は城之内っつーんだけど、アンタの名前は?」
「“ハト”でいいよ。ショップじゃそう呼ばれてるから。……お手柔らかにね」
ハト? あだ名か?」
「まぁそんな所かな」

へらりと笑って受け流す。童実野町ではあまり馴染みはないが、デュエルネームと言った所か。
使用デッキから名前が付く事もあるが、どうにもその呼び名からは予想がつかない。
(何にしろ、素直に名前教えてくれねーってのはちょっと面白くねーんだよな)
初対面に加え金髪頭で警戒されているのかもしれないが、一定の距離を保たれているのが何だか気に食わない。

「ふーん…、まぁいいや。俺が勝ったらちゃんと名前教えてくれよ」
「いいよ、勝ったらね」

自信ありと取れる言葉にぴくりと片眉を上げるも、目が合うなりにっこりと笑顔を向けられては毒気も抜ける。
(くっそ~……。顔はホント可愛いんだよな、この子)
「ちょっと城之内、真面目にやんなさいよ」
「わ、分かってるよ!」
それを察した杏子から喝が飛び、思わず姿勢を正した。これでも名のある大会では常に上位を取ってきたのだ、簡単には負けられない。

「それじゃいくぜ、――デュエル!」





「―――…ま、マジかよ……」


手札を力なくバラバラと机の上に落として、城之内はがっくりと項垂れた。

「すごい……。いくら城之内がプレイングミスしたからって殆どライフも削れないなんて……」
「うるせぇ! プレミくらい誰だってすらぁ! 部外者はちょっと黙ってろ杏子!」
「何が部外者よ、応援しててやってんのに!」
「ま、まぁまぁ2人共落ち着いてよ。――でもすごいね、ハト……だっけ。城之内くん相手に5連勝なんて」
「ぐっ……遊戯、連敗数は言わなくていいんだよ」

仲裁に入った遊戯の言葉にさり気なくダメージを受ける城之内を横目に、ハトはへらりと目尻を下げる。

「デッキ相性が良かっただけだよ。ほら、私のデッキって相手の力を借りるデッキだから」

確かに彼女の使うモンスターは見た目が可愛い分どれも攻撃力が低く、それこそ城之内の真紅眼の黒竜など出されたら太刀打ちできないものばかりだ。
けれどそれを逆手にとって、独特のモンスター効果と魔法や罠で相手と己のモンスターを入れ替える――若しくは差分のダメージを相手に与えると言う戦術で城之内を見事打ち破ってみせた。
一手を止めても二手三手と畳み掛けられては防ぎようもなく、頼みの綱のギャンブルカードもこういう時には強運は働かない。
元々攻防戦の苦手な城之内だ、彼女の言う通り相手が悪かったと言えよう。


「ほら城之内、そこどいて。遊戯、今度は遊戯が挑戦してみたら?」
「僕?」
「ちょ、ちょ~っと待てって! まだ俺との勝負中なんだよ!」

確かに魔法や罠を駆使する遊戯ならば勝てるかもしれない、――が。
立ち上がって腕で2人を制し、その場を死守する城之内に杏子が「アンタまだやる気?」と呆れ顔を向けるが知った事じゃない。

「……ハト! 今日は素直に負けを認めるぜ。けどまた今度俺と勝負してくれ! 今度こそ勝ってみせる!」
宣戦布告を叩き付ける相手に2、3度目を瞬かせた後、ハトはケースへとデッキをしまいながらへらりと笑った。
「いいよ。週末なら隣町のカードショップによくいるから。何度でも受けて立つよ」
「その時も今日と同じ条件で構わねぇな?」
一瞬何の事かと言う顔をしたものの、賭け内容を思い出したのか再び頷いたの見て城之内は満足げに口角を上げた。

「よし! じゃあそれまで誰にも負けんなよ。お前を倒すのは俺だからな!」
「えっ、誰にも? 私ショップじゃあんまり強くないけど……」
「城之内、お前そういう下心があるから勝てないんじゃねぇのか?」
「本田まで……! うるせーうるせー! ほら、もう帰ろうぜ!」

例えこれが自分だけとの条件だと分かっていても、少なくとも遊戯を始めとする身内には負けて欲しくない。
彼女に初めて勝って堂々と報酬を得たいなんて、まぁおかしな拘りだけれど。


「じゃーな、ハト。また日曜にでも再戦しに行くから待ってろよ」
「うん、じゃあ返り討ちにする準備しておくね」
「てめっ……そう簡単にさせっか!」

まさかの軽口に肩怒らせ、友人と共に踵を返した。
負けっぱなしに言われっぱなし、けれどそれすらも楽しく感じてしまうのだから仕方ない。
そして何となく分かった。きっと彼女も同じ気持ちに違いない。その証拠に――…。

「じゃーまたね、城之内くん!」

振り返れば此方へと大きく手を振る彼女が見える。
名前は勿論知りたいが、それよりもこの勝負が続けられる事が今は何より嬉しくて隣の決闘王へと高揚した顔を向けた。



「よーし遊戯、日曜までにあのデッキの対策教えてくれ!」




今に見てろと敗者は笑う

(今度はそっちから勝負してくれって言わせてやらぁ!)


title:Discolo



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