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どさくさにまぎれて



日直の仕事をおえて教室に戻ってきたら、こちらに向かって手を振る柚原が目に入った。
と言っても俺にではなく、入れ違いに教室を出て行く他のクラスの女子に対して。

「また違うクラスからお客さん? 本当に人気あるねぇ柚原

自分の席に腰を下ろしながら、ぱたりと机に突っ伏した隣の彼女に声をかけると、

「人気があるのは私じゃないけどね」

なんて少々ふて腐れたような声と恨めしそうな視線が向けられた。
それだけで何となく予想が付いて、俺は反射的に眉を下げて苦笑いを浮かべた。

「もしかしていつもの取り次ぎ役かい? 顔が広いのも困りものだね」
「ホントにね……。別に紹介する為に交友関係広げてるわけじゃないんだけどさ」

むくりと起き上がり、溜息混じりに小さく零す。
そんな彼女に、「大変だね」なんて他人事のような言葉しか掛けられないのはちょっと申し訳ないけれど。


柚原が最近ちょっと参っている“取り次ぎ役”と言うのは、所謂友人内での紹介の事だ。
自分からは声を掛けられないから、柚原を通して仲良くなろうって言う子がどうやら男女共に後を絶たないらしい。
多分さっき教室を出て行った子もその1人なんだろう。
柚原は我がアメフト部もお世話になってるチア部部長で、それ故に特に運動部の連中とは接点が多い。
元々明るくて人見知りとは無縁な彼女だ。
誰とでもすぐ仲良くなれる性格が、幸か不幸か余計な面倒ごとまで引き付けてしまうに違いない。

「もう私って結婚相談所みたいなもんだよね。あ、結婚はしてないから交際相談所?」
「たまには断ればいいんじゃないの?」
「まぁ私も遊びにいけるからいいかなって。喜んでくれるのは嬉しいし」
「ポジティブだねぇ。いい事だけど」
「ところでキッドさん。次のお休みはいつですか」
「……この所君から休みを聞かれて普通に楽しめた覚えがないんだけど」

突如仕事モードに入ったらしい彼女にもはや苦笑しか浮かばない。
この言葉に最初は淡い期待なんかもしたものだけど、そこはあれ。
期待し過ぎるとロクな事がないっていう俺の教訓そのままだった。
有り難い事にこんな俺なんかをいいと言ってくれる子からのご指名だったそうで。
それが数回続けばまぁ嫌でも学習能力もつくってもんだ。

「えー、つまんなかった?」
「いや、そういう意味じゃなくてね……」
「じゃあ次はキッドの好きな所行こうよ。それなら良くない?」

返事の代わりに眉を下げて深呼吸にも近い溜息を吐く。
これだけ誘ってくるって事は、もしかしてさっきの子の対象は俺だったって事かな。
他に幾らでも人気スポーツやってるイケメンはいるんじゃないの?
そりゃアメフトじゃ投手が花形ではあるけど、わざわざこんなマイナースポーツの枯れた奴に目を向ける必要もないと思うんだけどね。


…………柚原、君以外はさ。



まだ此方の様子を伺ってる柚原が視界の隅に映って、自嘲気味な笑みが自然と浮かぶ。
この子はいつも、無邪気に俺の心を抉ってくれるんだから参るよ。


「……全く……。前回といい今回といい、君は一体俺と誰をくっつけたいの」
「希望としては小鳩ちゃんかな。お勧めだと思うんだけど、どう?」
「そう、小鳩ちゃ……、……え?」

溜息交じりに繰り返しかけて、思わず目を見開く。
そのまま隣へと顔を向けたら、柚原は悪戯っぽく目を細めて自分を指した。


「そ、柚原小鳩ちゃん」




 
どさくさにまぎれて

(私情挟めるのも幹事の特権だよね)(……食えないねぇ)



title:恋したくなるお題



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