ギリギリまで錯覚させて
「あーべ! 今日誕生日だよね。おめでとーっ」
「……は?」
今日は部活もないし、さあ帰るかとコートを羽織ったところで、目の前に突き出された菓子袋に思わず動きを止めた。
ビニール袋にこれでもかと飴やスナック菓子を詰め込んで、受け取れとばかりに押し付けてきたのはクラスメートの初瀬川。
朝からちらほら祝いの言葉は貰ったものの、こいつはないだろうと期待すらしなかっただけに、かなり驚いた。
気付けばいつも口喧嘩になっていて、下手すりゃ嫌われてんじゃねェかと思ってたくらいだ。
間抜けな返事になったのも仕方ないってもんだろう。
「あれ? 違った?」
「いや、合ってっけど」
「じゃー何、その顔」
「……普通にびびったんだよ」
まさか誕生日を知ってるとは思わねェだろ。
胸中で突っ込んで、そういやこいつは新聞部だったと思い出した。
野球部担当とか言ってマネジの如く毎日のように顔出してんだ。
部員のことくらい当然調べてあっておかしくない。
「サンキュ。貰っとく」
突き出されたままだった菓子袋を受け取ると、初瀬川は満足そうな顔をした。
プレゼントが菓子の詰め合わせとか、普段飴を持ち歩いてるこいつらしいと言えばこいつらしい。
しかも袋がコンビニのものだ。
学校の売店で買ったんじゃないとすると、こいつ朝からこんなかさばる物を持ち歩いてたってことか。
「お前、他の野球部の奴にもこんなことしてんの?」
ちょっと呆れて聞いたら、初瀬川はきょとんとしてオレを見上げた。
「まさか。誕生日しらないし」
「は? だってお前野球部担当だろ」
「担当ったって別に部員のプロフィールまで調べないよ。必要ないし」
更にはキョーミないもん、と余計な一言までけろりと付け加える。
あのな。野球部員目の前にして、喧嘩売ってんのかテメーは。
思わずいつもの喧嘩口調で言い返そうと口を開いた。
「じゃあ何でオレの――……」
そこまで言いかけて、止まる。
「? オレの、何?」
「……何でもねー」
訝しげに眉根を寄せる初瀬川から、反射的に顔をそらした。
―――じゃあ、何でオレの誕生日は知ってたんだよ?
意地っ張りで気分屋で、野球部員に“キョーミない”お前が、プレゼントまで用意して。
緩みかけた口元を隠そうと、オレは巻いたマフラーの中へいつも以上に顔を埋めた。
ギリギリまで錯覚させて
(……まァ、誕生日なんだし)(たまには都合よく解釈したって、いいよな)
title:恋したくなるお題