見つめる瞳のその先は
「いくぞってめぇら!」
「おーっっ!!」
「Let’s Showtime!!」
サッカー部のグラウンドに、闘志漲る大きな声が響き渡る。
今日もあたしは、チームの先頭に立ってサッカーボールを蹴る政宗先輩を一瞬たりとも見逃さないように目で追う。
はぁ~政宗先輩…。
ため息が出るほどかっこいいです…
放課後の教室の窓から、あの日以来こうして政宗先輩を見つめるのがすっかりあたしの日課になっていた。
そしてそれは、あたしの至福の時間。
どーしよう…好きすぎます…政宗先輩…。
ここでこうして見てるだけで、胸がどきどきしてます――…
伊達政宗先輩は、あたしの1つ上の2年生でサッカー部のエース。
3ヵ月前、あたしは政宗先輩に一瞬にして恋に落ちた。
見つめる瞳のその先は
その日の放課後、日直だったあたしは先生に頼まれて別棟の校舎にいた。
手伝いも終わり、教室へ戻ろうとして焦った。
「あ、あれ…?」
方向音痴のあたしは、すっかり迷ってしまっていた。
並んでいる教室のプレートを見ると、どうやら2年生のフロアーみたいだった。
残っている数人の先輩たちの視線が明らかにあたしに注目していて、とても居心地が悪い。
俯き加減で早足に通り過ぎようとしたあたしの前を、突然誰かが通路を塞いだ。
立ち止まって顔を上げると、そこには襟に2年のバッチをつけた3人の男子がいた。
「お、1年じゃん?かーわいいっ」
あたしを見る視線がすごく気持ち悪い。
怖いっ…体が動かない―― 恐怖のあまり、涙が出そうになるのを必死に堪える。
「あ、あの…すいません…通して…ください…」
あたしは震える声で小さくそう言うと、なるべく目を合わせないようにその場から離れようとした。
でもそんなに甘く逃がしてはくれなかった。
「通さないよー。せっかくだし、これからちょっと俺らと遊ばねー?」
1人があたしの腕を掴んだ。
「やっ…っ」
誰か…助けて――
声にならない声で叫んだときだった。
「あーん?てめぇら、何やってんだ?」
そのとき、あたしの背後から声がした。
「伊達政宗っ」
先輩たちの顔色が変わった。
伊達…政宗…先輩?この人が…
みんなから伊達先輩のいろんな噂はよく聞かされていた。学園内じゃかなりの有名人らしくて。
「嫌がってんじゃねーか。その汚ねぇ手を離せよ」
「ふざけんな伊達っ。お前、いつも大きな顔してんじゃねーよっ」
「HA!いいねぇ、相手になってやるよ」
「くっ…」
伊達先輩の迫力のあるトーンに、あたしの腕を掴んでいた手が一瞬緩んだ。
その隙を逃さず、伊達先輩はあたしを引き寄せた。
そして一緒にいたもう1人の人にあたしを預けると、あたしの前に立った。
「小十郎、その子を見てろよ」
あ、じゃあ…この人が片倉小十郎先輩――
あたしは片倉先輩を見上げた。
伊達先輩の傍には、いつも3年の片倉先輩がついてるってほんとだったんだ。
「はっ!政宗様。でも、あまり無茶な行動はなされるな」
「All right」
目の前に広がる政宗先輩の背中は大きくて、すごくかっこよく見えてくらくらした。
「伊達っ!!いい気になってんじゃねーっ」
「ふっ。Coolに行こうぜ、Coolによ」
声を荒げる先輩たちに、伊達先輩は余裕を見せる。
勢いよく殴りかかってきた先輩たちを、伊達先輩は素早く交わして思いっきり拳を突き出した。
「ひゃっ」
あたしは咄嗟に目を瞑った。
「心配なされるな。当ててませんから」
片倉先輩のその声に、あたしが恐る恐る目を開けると、転がるように逃げて行く3人の先輩たちの後ろ姿が見えた。
「ケガはねぇか?」
伊達先輩があたしに振り返った。
「は、はいっ。ありがとうございますっ」
「ならよかった。行くぞ、小十郎」
「はっ」
再び背中を見せた伊達先輩に、あたしは思わず声をかけてしまった。
「だ、伊達先輩っ」
「何だ?」
伊達先輩は立ち止まって、あたしを真っ直ぐに見てくれた。
あ、あたし、何で呼び止めちゃったんだろっ
どーしよう…でも、何か…何か言わないとっ…
「あ、あのっ、政宗先輩って呼んでいいですかっ?!」
伊達先輩は驚いた瞳をあたしに向けた。
あ、呆れてるっっ
そ、そうだよね。あたしいきなり何、大胆なこと言っちゃってるの?!
でも…片倉先輩みたいに名前で呼んでみたくて――
「い、いえ…あの…」
あまりの恥ずかしさに真っ赤になり泣きたくなったあたしに、伊達先輩はほんの少しだけふっと笑った。
「かまわねーぜ?好きに呼べよ」
この瞬間、あたしの胸は一気に政宗先輩で溢れた――…
百瀬朝海さんより頂きました