隣にいて
大嫌いな事務仕事に囲まれてる割には、最近は剣ちゃんの機嫌がいい。
今までは自分のやる仕事じゃないなんてつるりん達に押し付けてばかりだったのに、文句を言いながらも自分で片付けるようになってきた。
その原因はわかってる。
あの子――現世任務から帰還した、四番隊の子が手伝いに来るから。
「ねぇ剣ちゃん。やちるはいつまで剣ちゃんの傍にいていい?」
「……あぁ?」
お昼寝を満喫しようと寝転んだ剣ちゃんの背中に寄りかかりながら、ふと聞いてみた。
「やっぱり好きな人が出来たら、こうやっていつまでも一緒にはいれないよね」
「何だやちる、いきなり。好きな男でも出来たか」
「あたしじゃないよぉ。剣ちゃんの話だってば」
「ハッ、くらだねぇ事言ってんじゃねぇよ」
眉を顰めて肩越しにこっちを見たものの、すぐにぷいと向こうを向いてしまった。
くだらなくなんかないのに。
きっとその日はもうすぐに来る。
物心ついた時から一緒に居た剣ちゃんと、離れなきゃいけない時が。
「だってさ。好きな人が出来たらやっぱり剣ちゃんはその子と居たいだろうし、その子も剣ちゃんと居たいよね」
そしたらきっと、あたしは邪魔になっちゃうから。
あたしの居場所がなくなっちゃうから。
その覚悟は、早め早めにしておいた方がきっといい。
「くだらねぇ事言うなって言ってんだろ。心配しなくても当分ねぇよ」
「そんな事ないよ!」
横になってる剣ちゃんに乗っかるようにして叫んだら、剣ちゃんは眠そうな目を少しだけ見開いた後、ひとつ溜息をついた。
「お前を邪魔者扱いしない奴ならいいんだろうが」
くだらねぇ、ともう1度剣ちゃんが吐き捨てる。
「お前は俺がそんな奴を気に入るとでも思ってんのか」
この話はもう終わりだとばかりに、剣ちゃんが再びしっかり目を閉じた。
何度か名前を呼んでみたけど、聞こえない振りなのか本当に寝ちゃったのか、返事は返ってこなかった。
諦めて私もその広い背中にもう1度背中合わせに寄りかかる。
きっと剣ちゃんとあたしは家族なんだと思う。
ずっと一緒で、だけどいつかは大切な人を見つけて離れていく。
「……あの子なら、あたしを邪魔だって思わないかな」
誰にでも優しくていつも笑顔のあの子なら。
「だったらこの場所、譲ってもいいな」
目を閉じれば、剣ちゃんとあの子が笑い合う姿が浮かんだ。
それは凄く凄く幸せそうで、何だかずっと――……遠くに感じた。
「ねぇ、剣ちゃん。そのときはちゃんと剣ちゃん離れするから」
だからそれまで。
それまでは。