「私も、好きです」
「ふーん、お返し用意したんだ」
リボンのついた小袋を手に柚原を探す俺を見て、乱菊さんが笑み交じりにそう言った。
「いらないとは言われたんスけど。返す返さないは俺の勝手だって押し付けてこようと思って」
「いいんじゃない? あの子の性格上、素直には受け取らないだろうから」
そもそも先月、チョコを有無も言わさず押し付けてきたのは向こうの方だ。
同じように返したって文句は言えないはずだろう。
そう考えてのことだったが、乱菊さん的にはどうやら好感触だったらしい。
「頑張んなさいな、修兵。あんたのそういうとこ、いいと思うわよ」
ひらひらと手を振って見送ってくれる乱菊さんに、何とも言えない苦笑いで返す。
言った事はないが、乱菊さんは確実に俺の気持ちを知ってるんだろう。
霊術院時代から柚原をずっと好きだったことも、例え義理チョコと宣言されても舞い上がるほど嬉しかったことも。
最近の休憩場所だという斑目の情報通り、隊舎裏でくつろぐ姿を見つけて声をかけたら、柚原はこれでもかというくらい目を見開いた。
立ち上がる柚原に用意したお返しを差し出したら、案の定困った顔をする。
それでも構わず、その手に無理やり押し付けた。
「い、いらないって言ったでしょ!」
「俺が返したかったんだよ。いらねぇなら捨てりゃいい」
わざと怒ったように睨んでやったら、柚原はさすがにばつが悪そうに視線を逸らした。
受け取ることも返すことも出来ずに、手の中で袋を持て余す。
「もう、こうやって気を使わせるから嫌だったのに……」
「バカ。今更お前に気なんか使うかよ」
「使ってんでしょ。万年金欠の癖に、わざわざこんなお返し用意して」
「煩ぇな、本命に返して何が悪い」
「何が本……!」
いつもの調子を取り戻して噛み付きかけた柚原が、思わず言葉を飲み込んだ。
意味が分かってないんだろう、目をぱちぱちさせて俺を見る。
ったく、本当に鈍い奴だよな。そう口にする代わりに、俺は大きく息を吐き出した。
「だから。例え貰ったのが義理チョコでも、好きな奴には返したいと思って当然だろ」
柚原にとってあのチョコはただの気紛れかもしれないし、その相手が俺だったってのも、深い意味はないのかもしれない。
それでも俺は、ずっと前から待ってたんだ。
こいつからのチョコレートを。
ただの“仲のいい同期”から、抜け出す切っ掛けを。
「……返事、今貰ってもいいか。待つのはあんまり好きじゃねぇんだ」
玉砕覚悟で静かに告げたら、柚原の顔がくしゃりと歪んだ。
「私も、好きです」
(なぁ、泣き声交じりのその言葉)(聞き間違いなんかじゃ、ないよな?)
「素直に~」の続きでした。
title:はちみつトースト